沈丁花 終章-2

ここらへんのはず…あった、きっとあの黄色い壁の家だ。
佐枝子は、昨日時生の実家で確かめた住所を頼りに
ゆるい坂を登っていた。

時生にはまだ連絡をしていない。
ちょっと通りがかった風を装い、様子を見たかったのだが
さっきまで晴れていた空が急に掻き曇り、大粒の雨が降り出した。

ハンドバッグを頭にかざして駆け出した拍子に脚をひねり
転んでひざを擦り剥いてしまった。
パンプスのヒールの先が片方取れてしまっている。
その間にも肩に、背中に、容赦なく雨は打ちつけ、体温を奪う。
何なのよ、この天気の変わりようったら!

「あの、大丈夫…じゃないわね、血が出てるし」
顔を上げると佐枝子と同世代の女性が傘をさしかけてくれた。
「私の家すぐそこなの、どうぞ」

その言葉の意味を理解した佐枝子は
こんな形で出会いたくなかったと今日の外出を後悔したが
雨は当分止みそうもない。
そこらじゅうにぶちまけた鞄の中身を一緒に拾うと
観念して靴を脱ぎ捨て、彼女の後に従った。

黄色い家に住むのはゴッホばかりではないようだ。

続く

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